食べる口??

食べてもらうタイミングが難しいお年寄りがいる。

食べる気持ちがない時は、開いている口の中へおかずやご飯を運んでも、開きっぱなし。モグモグは一向に始まらない。どんなに話しかけても、問いかけても、体をゆすっても、口のマッサージをしても、甘いものや好物を準備しても、お通じがしっかり出た後だとしても、その口は開きっぱなし。

なので、そんな時は諦めるしかない。食べよう!食べたい!という気持ちになるタイミングを待つ以外打つ手はない。

その日もお昼ご飯の準備はしていたが、みんなが広間で食べている時間帯には食べる気持ちは湧いてこないらしく、口が開きっぱなしで閉じる様子は見られなかった。

周りのみんなが食べ終わるくらいの時間が経過した時、そのお年寄りの近くにいた一人の職員が「今の口は食べる口っぽい。食事の準備をしましょうかね。」と言った。

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普段そのお年寄りと関わる時間が少ない自分は、その言葉を聞いて「食べる口??」とはなんぞや??と思った。これまでその方の口の形と食べるタイミングに注目したことがなかった自分は、最初は疑心暗鬼で様子を疑っていたのだが、、。

すぐに疑ってしまった自分を恥じることになった。パクパク、モグモグ、ムシャムシャ、あっと言う間に一人前をペロリと平らげた。

見た目的に「ポカン」と口が開いているときは食べてくれる期待値は低い。けれど、若干口が開いている面積、広さが狭まっていて、上の唇がすぼんでいるときは、食べてくれるパーセンテージが高いとのことだった。

そのお年寄りのことをよく知っているからこそ見抜けることだな、、と感嘆した。また、常日頃から集いの場がうまく作れているからこそ、そんなお年寄りの小さな動きや合図、食べてくれるタイミングに気づくことができているのだろうな、、とも思う。

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介護業界では、AIやICTを活用し、業務?の生産性や効率性を上げることを目指す動きが着々と進行している。高齢者社会をいち早く迎えた介護の先進国として、介護用AI、ICTを日本から世界へ売り出そうという目論見もあるのだろう。

果たしてAIやICTが、食べてくれる絶好のチャンスである瞬間やタイミングをどのよう気づき、教えてくれるのだろうか。

仮に教えてくれるとしてのイメージをしてみる。監視カメラのような物で、お年寄りの顔をモニターに映し出し、口の形にフォーカスし「今なら食べてくれるよ~」と言う電子音が鳴り、その人の元へ職員が向かう。食べてもらった後、職員はまたモニターの前に行き、画面とにらめっこ。

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そんな暮らしの場を望んでいるお年寄りは果たしているのだろうか。もちろん、そんな場所に集いの場なんて概念はなく、全てのことが個別に行われていくのだろう。

年老いた先に、AIから暮らしに関わる重要なタイミングを判断、把握され、もしくは管理、監視され、関わってくれる主体が人ではない高齢福祉の世界が待っていると想像すると、年をとることで自分の身の回りのことができなくなることに大きな不安を覚えてしまう。

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老いること=不安である社会の中では、生きていく上で一番大事なものが常に「健康」と言う思考から解き放たれる日は来ないような気がする。コロナ禍を通して、「健康」を守るために捨て去っていくものにこそ、本当に大切にすべきものがあるのではないだろうかとも感じる今日この頃。

また、老いた先にそのような未来が待ち受けている国「日本」の出生率は、今後も上がるとは到底思えない、、のは自分だけ?「生老病死」はどうしたって一本の線に繋がっているのだから、、。

これからも、よりあいの森は、「食べる口」に気づける場所であること。「食べる口」になっていることを気づいてくれる職員がいる場所であり続けたい。

そのために今日、「今」の集いの場を作り続けていきたいという思いに至った出来事の話でした(*^^)v

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お伽の国

この日は、第二よりあいから車2台で野多目大池を目指して住宅街をゆっくりゆっくり走っていました。家々の庭先には、ツツジが咲き誇っています。

ある家の前を通ると、赤い実をたくさんつけた木が目に留まりました。先頭の車が見えなくなってしまいましたが、車を止めるようにしながら「この木見てください。なんかたくさんの実がついてますよ。なんの木でしょうね」と助手席のチエ子さんに話かけました。チエ子さんは窓から顔を出して、「まあ、ほんと」と驚きました。
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赤い実がぎっしりと付いているその木には、大きなリンゴもぶら下がっています。不思議に思いながら目線を落とすと、玄関先に男性が座っていました。車を停止して、「すいませ~ん」と声をかけました。

「ここを通りかかったら、木に赤い実がたくさんついていて、リンゴもあって・・。リンゴの木ですか?」と尋ねると、「これはね、全部作りものですよ」と返ってきました。そして、その方は庭先からテーブルを持って出てこられました。

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車を降りて、テーブルのそばに行きました。そのテーブルの上には、たくさんの菓子パンが並べてありました。そして、これが全部作り物であることに目を丸くしました。一つお借りして、「これ、木で作っているそうなんですよ」と車中に持ち込みました。

「ほ~う、よく出来てるね」と、手に取ってかじる真似をするチエ子さんと目が合い笑いました。ハルコさんも「これ、にせもの?」と表も裏もくまなく見ておられました。

そうしている内に、先を走っていた車が、後車がついて来ないことに気づき引き返してきました。家の方は私たちを歓迎してくれ、皆さん車から降りてお庭を見せてもらいました。
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「よくできますね~」とミズエさん。本物そっくりのパンに釘付けでした。
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いろんな木の彫り物が、あちらこちらに飾られています。
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この家の方は出口さんおっしゃって、もともと大工さんをしておられたそうです。仕事を引退して、木で彫り物を始められたとか。ご近所さんやここを通る方が、お庭の飾りを楽しみにしてくれていることがとても嬉しいと笑っておられました。
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途中から隣に住む小学生の女の子が、江口さんに作ってもらったぬいぐるみの家を持って遊びに来てくれました。野多目大池を目指していたことをすっかりと忘れ、偶然出会った方々とにぎやかで楽しい時間を過ごしました(#^^#)

まるで、お伽の国に迷い込んだかのようなひとときでした。

能面を割る

心疾患で2週間程入院し、無事に退院してきたお年寄り。

入院前はクリっとした大きな目を輝かせ、冗談を言ってはケタケタ笑って、場の盛り上げ役だったのだが、、退院時、その表情はまるで能面のようになっていた。

添書を見ると、入院初日にベッドより自分で降りたことが原因で、転落ハイリスク者とされていた。そのため??四方を柵で囲まれてしまい「うーご君」なるセンサーを付けられて入院生活を送ることになってしまっていた。
※うーご君とは、プレートをお年寄りの洋服に取り付け、そのプレートが抜けると音が鳴る仕組みの体感センサー。

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四方を柵で囲まれたベッドでうーご君をつけられての入院生活。さぞ辛かったことだろう。そりゃー能面のような表情にもなる…。

それぞれの場所での事情もあり、致し方がないこともある??のでしょう。また、病院は「治療」する場所なので、安静にしておかなければならないのも理解できる。しかし、それを免罪符として、がんじがらめにベッドの上に縛り付けなければならない治療って一体なんなんだろう??と正直疑問に思う。

退院できた日から、一日一日、固まっていた表情が和らいでいくのが手に取るようにわかった。おしゃべりも徐々に増えていき、入院前のように他のお年寄りへ話しかけるようにもなった。そして、2週間くらい経過したころには、やっと以前のような笑顔とおしゃべりを取り戻すことができた。

一安心。とはまさにこのこと。

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このお年寄りの能面が割れていく様を見ていて、改めて、お年寄り達が集う「場」の大切さと、お年寄りが必要としているありのままの暮らしを守ることの必要性を切に感じた。

老いてくると入院し、治療が必要になることは避けては通れないことなのかもしれない。ならば、自分達にできることは、治療の場から暮らしの場へいつでも戻ってくることができるように、それぞれの方に応じた「場」を準備しておくことだと感じている。

そして、これからも集いの力と場の力とお年寄り達の力を借りて、被らざるを得なかった能面を割り続けていきたい。

それにしても、、能面にひびが入り、割れていく様をみているのはこれ以上ない喜びだった。

このような経験ができるのもこの仕事の醍醐味の一つなのだが、、できるならば、このような事例のように、心を閉ざさざるを得ないような社会環境、社会構造というべきものが少しでも改善されていけばな、、、と願っている。

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職員さん募集中!

宅老所よりあい、第2宅老所よりあいにて一緒にお年寄り達の暮らしを支えてくれる介護職員さんを若干名募集してます!
介護員募集(夜勤あり)【宅老所よりあい・第2よりあい・よりあいの森】
介護員募集(夜勤なし)【宅老所よりあい】
↑ 細かい情報になります。
ご興味のある方は見学からでも構いませんので、ご連絡いただけたらと思います。

 

宅老所よりあい、第2宅老所よりあいは、認知症対応型のデイサービスです。
日々、10人~12人くらい通ってこられるお年寄り達との時間を過ごしています。また、自主事業で泊りの支援もしています。

日課やスケジュールはなく、その日その日の顔ぶれや、それぞれの体調、様子によってその日限りの集いの場をつくって過ごしています。

お年寄り達の「今」を大事に、認知症やぼけを抱えたとしても、老い、病気による不自由を抱えたとしても、本人が望むであろう、ありのまま、あるがままの暮らしができるような支援に努めています。

それは決して簡単なことではありませんし、楽な仕事ではありません。けれども、目の前のお年寄りを中心とした、ぶれない支援ができる場所でもあり続けたいと思っています。

まずは、この場所の空気感に触れてみるだけ、、でも構いません。ぜひ足を運んでいただきたく思っています。

ご連絡お待ちしております。
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第2よりあいの集い

先日とても心に残る出来事があったので紹介します。

その日の昼食は、食事ボランティアの松本さんが来てくださいました。

よりあいに集うお年寄りも12人、満員御礼です。

よりあいつうしん25号で紹介したノブコさんも来られています。ノブコさんと松本さんは、毎週日曜日の教会でご一緒され、松本さんのボランティアのきっかけを作ってくれたのは、ノブコさんでした。

「松本さんが食事を手伝ってくれるなら、私も行きたい」すぐに迎えに行きました。

13年前にお母さんを第2よりあいで一緒に支えた、介護OBでもあり、よりあい世話人の純子さん。

純子さんと松本さんも、30年来の古いお知り合いで、松本さんのボランティアの背中を押してくださっていました。

松本さんがボランティアに来てくれることをきっかけに、純子さんに連絡をしました。純子さんも久しぶりの第2よりあいを楽しみに、差し入れの饅頭とエプロンを持って来られました。

今日は広間に多くの人が集っています。

このような場合、誰かは落ち着かなかったり、席を離れて行かれたりすることが多いです。しかしこの日はみんなが広間に集い、穏やかで、笑い声が多く、良い雰囲気です。

 

すぐに時間が経ち昼食が運ばれてきます。

沢山の人で囲む食卓。その日の食事も特別美味しく感じました。

食事は栄養だけでなく、その雰囲気や会話、一緒に食べるということが楽しいのです。

食事が終わると、皆さん自分のお皿を片付け始められます。

台所で洗い物をされている姿を見て、ノブコさんがぽつり。

「私も昔はあそこで手伝ってたんだけどね、もう足がかなわないから出来ないのよ…」

その顔は、悔しいような申し訳ないような…。

食事と片付けが終わると、松本さんが三線を披露してくださいました。

軽快な歌とリズムに、みんなの体も動き出します。

広間で純子さんと思い出を語り合いました。

「久しぶりに来たけど、私が母の介護をしていた13年前と何にも変わって無いね」

昔の第2よりあいを良く知ってくれている方が、今の第2よりあいを「変わらない」と感じてくれている。僕はその言葉がとても嬉しく、励みにもなり、自分たちが大切にしていることを確認出来たような気持になりました。

昨今の介護現場はテクノロジーの導入が、急速に進んで来ています。

生産性の向上や効率化は、管理していくことにしか繋がっていっていません。

センサーの音や、モニター越しに見えるお年寄りの姿。

今介護に従事されている方も、これはお年寄りが望んでいることなのかなと思われているのではないでしょうか?

 

第2よりあいは、集いを通して顔を合わせ、繋がりや関係が出来る場所です。

目の前の人を気にかける。自分に出来ることをする。

相手の邪魔はせず、強要もせず、尊重しあえるように。

人間的な感覚をごくごく当たり前のこととして意識しています。

この日は近くの小学校の遠足があり、下の道路を沢山の子供たちが楽しそうに帰って来ていました。「こんにちは~!」「バイバーイ!」「遠足楽しかったよ!」

こちらも楽しい一日を過ごすことが出来ました。

 

第2よりあいでは、お年寄りの暮らしを支えてくれる職員を若干名募集しています。

見学だけでも構いません。                          興味のある方はぜひこの雰囲気を感じに来てください。

介護員募集 【よりあい・よりあいの森】
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ご連絡お待ちしております。