能面を割る

心疾患で2週間程入院し、無事に退院してきたお年寄り。

入院前はクリっとした大きな目を輝かせ、冗談を言ってはケタケタ笑って、場の盛り上げ役だったのだが、、退院時、その表情はまるで能面のようになっていた。

添書を見ると、入院初日にベッドより自分で降りたことが原因で、転落ハイリスク者とされていた。そのため??四方を柵で囲まれてしまい「うーご君」なるセンサーを付けられて入院生活を送ることになってしまっていた。
※うーご君とは、プレートをお年寄りの洋服に取り付け、そのプレートが抜けると音が鳴る仕組みの体感センサー。

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四方を柵で囲まれたベッドでうーご君をつけられての入院生活。さぞ辛かったことだろう。そりゃー能面のような表情にもなる…。

それぞれの場所での事情もあり、致し方がないこともある??のでしょう。また、病院は「治療」する場所なので、安静にしておかなければならないのも理解できる。しかし、それを免罪符として、がんじがらめにベッドの上に縛り付けなければならない治療って一体なんなんだろう??と正直疑問に思う。

退院できた日から、一日一日、固まっていた表情が和らいでいくのが手に取るようにわかった。おしゃべりも徐々に増えていき、入院前のように他のお年寄りへ話しかけるようにもなった。そして、2週間くらい経過したころには、やっと以前のような笑顔とおしゃべりを取り戻すことができた。

一安心。とはまさにこのこと。

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このお年寄りの能面が割れていく様を見ていて、改めて、お年寄り達が集う「場」の大切さと、お年寄りが必要としているありのままの暮らしを守ることの必要性を切に感じた。

老いてくると入院し、治療が必要になることは避けては通れないことなのかもしれない。ならば、自分達にできることは、治療の場から暮らしの場へいつでも戻ってくることができるように、それぞれの方に応じた「場」を準備しておくことだと感じている。

そして、これからも集いの力と場の力とお年寄り達の力を借りて、被らざるを得なかった能面を割り続けていきたい。

それにしても、、能面にひびが入り、割れていく様をみているのはこれ以上ない喜びだった。

このような経験ができるのもこの仕事の醍醐味の一つなのだが、、できるならば、このような事例のように、心を閉ざさざるを得ないような社会環境、社会構造というべきものが少しでも改善されていけばな、、、と願っている。

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