「宅老所よりあい」の簡単な歩み
1991年のことです。
大場ノブヲさんという一人の女性がいらっしゃいました。
大場さんは92歳で一人暮らしをされていたのですが、ぼけを抱えたことで社会から孤立し、行き場を失っておられました。
そんな大場さんの居場所を作る。
それが「宅老所よりあい」のそもそもの始まりです。施設と呼べる場所もなく、最初は「伝照寺」というお寺のお茶室を借りてやっていました。
大場さんに限らず、当時、ぼけ(認知症)を抱えたお年寄りたちに「行き場」と呼べる場所はありませんでした。既存のデイサービスでは対応できないことを理由に、利用を断られることが多かったのです。
そのため、当事者が孤立することはもちろん、その家族も、24時間365日、認知症の親を抱え込み、孤立しながら介護せざるを得ない状況にありました。
「宅老所よりあい」は、そういった社会のありようを背景に、いつのころからか、ぼけを抱えたお年寄りたちの居場所となり、家族や地域の人々の拠点ともなっていきました。
現在は福岡市中央区地行、南区桧原、城南区別府の3か所で運営をしています。
理念と呼べるものがあるとすれば
食べ物はおいしく食べたい。病院食のような管理された食べ物ではなく、普通の家庭料理を普通に食べたい。それもひとりぼっちで食べるのではなく、みんなで一緒にわいわい食べたい。
おむつに垂れ流しは嫌だ。おしっこ、うんこはトイレですっきり自分でしたい。
たのみもしないリハビリなんかしたくない。誰かが作った勝手な時間割で、自分の生活リズムを乱されたくない。
それより昼寝を楽しみたい。お茶菓子に手を伸ばし、ほおばっていたい。昔話にも花を咲かせたいし、天気のいい日はふらりと外に出て、流れる季節を感じたい。
そして。できることなら。
住み慣れた街で最後まで自分らしく暮らしたい。見知らぬ場所で寂しく死ぬより、顔見知りの人々がたくさんいる落ち着ける場所で、穏やかに寿命を迎えたい。
もし「宅老所よりあい」に理念と呼べるものがあるとすれば、そんな当たり前の願いや生活を「できるだけ支援する」ということだけです。
高齢者をたらい回しにしない。隔離しない。縛らない。薬漬けにしない。老いの時間とリズムに付き合い、孤立しやすいぼけを抱えたお年寄りと、その家族に付き合う。
そんな支援に努めています。