鼻ひげをはやし、クリっとした目をした鳥好きの30代男性職員タツヤ(仮名)と、よりあいの森で暮らす普段から言葉がきつめな女性のお年寄りとの夜勤中に起きた出来事です。
※このお話には若干の下ネタが入ってきますので、苦手な方は悪しからず……。また、よりリアルないつもの様子を知ってもらいたいので、出来る限りありのままの状況を書いております。ぜひ暖かな目で読んでいただければと思います。
ちなみにこのお年寄りは、客観的に見て、我が道を行く、猪突猛進の性格です。嫌と言ったことは「いや」で、よくある「認知症の方への対応マニュアル」にあるような関わり方はおろか、変な小細工や誤魔化しは全く通用しません。
時折、お手洗いを失敗されるため、濡れてしまったズボンや下着を着替えてもらうためにお手伝いをしようとするのですが、とても嫌がられ、怒られ、フルパワーで拒絶される方です。
その晩も、お手洗いに間に合わず、ズボン等が濡れてしまっていたために、タツヤはズボンを着替える了承を得るために話しかけ、体に触れました。
すると「あなた、私のこと好きなんでしょ!?なんでそんなに触ってくるのよ!?」と言ってこられました。
こんな嫌がり方は今まで聞いたことがありません。普段は「大きなお世話です!!さわるな!!」と門前払い的な感じなのですが、その晩は違いました。
「だって濡れていますし、気持ち悪いでしょ?冷たいし、着替えた方が良くないですか??」と冷静に?返すと、「あなた私のこと好きなんでしょ?好きなんでしょ?結婚したいと思っているんでしょ!?男らしくはっきり言いなさいよ!結婚したいですって!直ぐOKしますよ!」とその言葉とは裏腹に怒り気味に詰め寄ってきます。
「いやいや、そんな気はありませんよ。好きだなんてとんでもありません」とタツヤは自分の気持ちを素直に伝えたところ
「なによ!!鼻ひげはやして、バカみたい!」
と言い放たれてしまいました。が、なんだかんだとお手伝いにて着替えをすませ、その場を離れていかれたとのことでした。
その後も、お年寄りとタツヤの話は続きます。
夜勤中、ユニットの広間で目が合うたびに「な~にジロジロ見てるの??あなた、私のことそんなに好きなの??」と詰め寄られます。
「いえいえ、そんなことありませんよ。そんな気はさらさらありません」とその都度、真面目に素直に応えますが、なかなかわかってもらえず、、最終的には
「なによ!鼻ひげはやして、バカみたい!!」と突き放されます。
また、隣のユニットで仕事をしていると、その場所までいざってこられ「あなたに会いに来ましたよ!」とにっこりされるため「いやいや、会いに来てくれなくても良いですよ~。仕事中です」と苦笑いしながら返事をすると「そんなに私を求めてるの??あなた私のことがそんなに好きなの??」と追い打ちをかけてきます。
「そんなわけないじゃないですか。そんな気はないって何度も言ってますよね」と応えると、やっぱり最後は
「鼻ひげはやして、バカみたい!!」と吐き捨てられてしまったとのことです。
告白もしていないのに、一方的に振られてしまったような切ない出来事ですが、鼻ひげをはやしたモテ男のタツヤは、その晩の出来事の一部始終を淡々と、時に微笑みながら、朝の申し送りで話してくれました。
大変な夜だったはずです。一人きりで追い詰められたのではなかろうか、、と思いましたが、笑い話のように一晩のやり取りを語るその朝のタツヤの姿は清々しく、神々しく見えました。
朝の申し送りでは、時としてこのようなエピソードが語られます。
夜勤者とお年寄りとの一夜限りのやり取りです。その日の夜勤者だけが経験した出来事をできる限り赤裸々に伝える場があることで、お年寄り達の暮らしぶりの輪郭はより強く、深みを増し、よりあいの森のエピソードとして蓄積されていきます。
どんな仕事にも共通することかもしれませんが、高齢者介護の仕事は、決して楽しいことや嬉しいことばかりではありません。むしろ、現場では、辛く苦しいことも度々あります。できれば、キラキラした綺麗な面だけを切り取るのではなく、このような生々しい出来事を伝えていくのも必要なことだと感じています。
上記のような一つ一つのエピソードが語り継がれることが、よりあいの森の大きな財産となり、この仕事の面白みを引き立ててくれているようにも思えます。人と人との関わりからしか生まれることのないリアリティーに溢れた臨場感のある日常が、AIとのエピソードにとって変わられることのないように、、申し送りでのこのような出来事を丁寧に、大切に、培っていきたいです。
と言うことで、本年もよりあいブログにお付き合いありがとうございました。本当にお世話になりました。
また来年もよりあいHPを通して、日々の出来事をお伝えしていきたいと思っておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
一年を通じて「よりあいの森」の出来事をお伝えくださり
ありがとうございました。
今回のタツヤさんの夜勤の出来事も村瀬孝生著「ぼけてもいいよ」
(西日本新聞社)に通じる内容と思いました。この著書のはじめ
に次のメッセージが添えられています。<リアリズムに徹した描写は、
一歩間違うと、読む人を嫌な気持ちにさせる恐れもないわけではない。
しかし、曇りのない眼差しとお年寄りへの敬意と愛着といったものが、
そうしたリスクを飛び越える。「家族や社会のために頑張ってきた人
たちを大切にできない社会はおかしい」という村瀬さんの思いが全体
を貫いていて、良質なノンフィクションになった>と記されています。
私も約15年間の両親の介護を通じて、辛いこと悲しいことをクスッと
笑える考え方にして乗り越えてきたことも多々ありました。
来年もタツヤさんの続きを聞かせてください。
今日12月31日、「よりあいの森」のキッチンでは、手作りの
お節作りでお忙しいことと思います。ブログでご紹介ください。
そして、利用者のみなさま、職員のみなさまお健やかに新年を
お迎えください。
あけましておめでとうございます。
そして、いつも拙いよりあいのブログへの暖かいコメントありがとうございます。
お年寄り達との暮らしをリアルに伝えたい思いは強いのですが、片山さんの言う通り、決して綺麗事だけではすまされない場面が往々にしてあり、伝え方に苦慮しています。
そして、一番大切な部分をオブラートに包まず、どのような形で社会に発信していけるのかが、自分達の課題でもあると思っています。
これからも、いつのころからか「生老病死」が自分事ではなくなってしまったように見える日本社会に対して、よりあいなりにリアルなエピソードを投げかけていきたいです。
毎度毎度の年末年始は、厨房職員が大忙しで、美味しい手料理をふるまってくれます。
おかげさまで、今年もみんなで元気に、美味しく!おせち料理をいただきました!!
今年も、よりあいの森、宅老所よりあいのお年寄り、職員一同、どうぞよろしくお願いいたします