鍵盤の感触

第2よりあいには、「音楽」がすぐ側にあります。

穏やかな午後には、ピアノの演奏とみんなの歌声、笑い声が広間に響きます。

そして、「音楽」を奏でるのは、長年第2よりあいを支えてくださったNPO笑顔からいただいたピアノです。

piano1

エツコさんは、その日初めてピアノに歩み寄られました。

フラフラと歩く姿は、今にも転んでしまいそうで、見ているだけでもどきどきします。けれども、エツコさんがピアノに向き合うところを見てみたい。何を弾いてくれるのかを知りたいから、その歩みを止めたりはせずに、さりげなく一緒に歩きます。鍵盤蓋を開けると椅子に座られました。

piano2

少し震える右手を静かに添え、一つ一つの音と鍵盤の感触を確かめるように、指に力を籠めます。ゆっくりとした綺麗な音色が広間に響きます。

piano3

広間に集うみんなが、演奏に注目し聴き入っています。

見ていない人も聞き耳を立てています。

一音一音が届き、その瞬間エツコさんは集いの中心になります。

piano4

「何ていう曲ですか?」質問してみました。

ちょっと考えて、恥ずかしそうに「うふふ」とにっこり笑い、教えてはくれません。

その満足そうにも見える笑顔とピアノを触る姿は、エツコさんらしさを感じる場面でした。

日々の暮らしの中にあるささやかな場面、自分で決めたこと、やりたいことを支えていく中にこそ大切にしたいことがあります。

piano5

迎え入れの緊張…

10月某日。

この日、初めてよりあいの森のショートステイを利用されるお年寄りがみえた。

このお年寄りにとっては、老人ホームと言う場所に泊まると言う初体験の日。どんな思いで泊まりに来られるのだろうか。

不安や心配はあって当然のことだろう。

一方、迎え入れる私達も「初めまして」である。

初めての方を迎え入れる時と言うのは、お年寄り、職員のお互いが、とてもとても緊張する場面でもある。

そして、言うまでもなく、最初が肝心(‘ω’)ノ

12386344210870

午前中は自己紹介もかねて、みんなで温かいコーヒーを飲みながらお茶菓子をつまみ、のんびりとお話をして、和やかな雰囲気で過ごすことができた。

とりあえず、出だしはOK!!穏やかな表情のお年寄りに、職員達は目を合わせ、ホッと胸をなでおろした(^O^)

午後になり、2階で暮らしているSさんを呼んでくることになった。

というのも、Sさんとこのお年寄りは、宅老所よりあいに通っていた頃の顔なじみで、Sさんは、昨年からよりあいの森で暮らすようになっていたのだ。

 

そんな2人が顔を合わせると

「はぁー久しぶりね。元気にしてた?」

「はぁー懐かしかね。涙がでるごた」

と、何カ月ぶりかの再会の喜びを分かち合い、職員が入る隙間もないほど会話も弾んだため、職員達の緊張はどこかに吹き飛んでしまった!(^^)!

 

そんな楽しい時間を終えた後、Sさんが、今日初めてショートを利用されるお年寄りのために飾りつけしていた「ようこそ!!〇〇さん」の文字を読み上げ

「いい飾りばしちゃるね~、素晴らしかねー!!ところで、〇〇さんって誰ね??」

と言われた。

12386313148415

その言葉に広間にいたお年寄りと職員は一斉に大笑い。

Sさんは、名前ではなく、顔を覚えて「久しぶり」の再開を喜ばれていたのか…。

それとも、名前も顔も覚えていないが、相手に合わせて「久しぶり」とその場を取り繕っていたのか…。にしては自然な再開の姿に見えたが…。

さて、真実はいかに!!

何はともあれ、最後の最後まで、お年寄り達のやり取りに助けられ、なんだかんだ初めてのショート利用のための迎え入れが上手くいき、一安心の職員達<m(__)m>

これからも色々な場面で経験するであろう「はじめまして」の瞬間。

迎え入れる側としての緊張感を保ちつつも、頼りがいのあるお年寄り達の力を借りて、また来ても良いかな~と思える場所にできるよう努めていきたい(^O^)

 

命拾い

油山の尾根から灰色の雲が近づいてきて、涼しい風が桧原のまちに夕立を運んできました。

「これで涼しゅうなる!」といって、窓際のソファで雨に濡れはじめた隣家の瓦屋根を眺めていたクニ子さんは、おもむろに腰を上げて外のデッキへつながる出口のほうへ歩んでいこうとされます。

少し不自由な右足を引き摺りながら、ピアノのふたや長椅子の背もたれをつたって、ようやくたどりついたガラス戸を開けると、側に置いてある工具やら庭弄りの道具がごちゃごちゃ入っている白い発泡スチロールの箱の中から、迷うことなく花切ばさみを取り出し、そのままデッキの向こう側のゴーヤのグリーンカーテンのほうへ向かわれました。

一歩ごとに右側にかくん、かくん、と傾きながら、地面まで40センチほどの高さのあるデッキの端に向かう後姿を見ていたら、そのままグリーンカーテンに突っ込んで地面に落ち、視界から消えるクニ子さんの姿が脳裏をよぎって、すこし冷や汗が出てきます。

「用心してね」と声をかけたいのをぐっとこらえて、いつ転んでも咄嗟に掴んで支えられる距離を保ちながら、気付かれないようにそっと後ろをついていきました。

 

「ついてこんで、よかとよ。」

「いや・・私も夕立に用があるので。」

 

後をつけていたことがばれていたことにうろたえ、わけのわからない返答をしていると

「このみたんなかとば、すっぴゃー押し切ってしまおう」

(このみっともないものをすべて切ってしまおう)

と枯れたゴーヤのツルをハサミで指して、にっこり微笑みかけてくださいました。

 

枯れていく葉を眺めるのも一興ですが、クニ子さんはとてもきれい好きです。

8月の終わりごろから、日が暮れるとはさみをもって、茶色くなり始めた葉っぱを片っぱしからむしり取っていくのが日課のようになっておられるのでした。

g1

通り雨のおかげで、デッキには心地よい初秋の空気が満ちていたので、今日はゆっくり作業してもらおうと椅子を用意しました。

「椅子なんかいらんよぅ、よかとけー」

と言いながらゆったりと腰を下ろして、網に絡みついて取りづらいゴーヤのつるを、しわしわの手でひとつひとつ丁寧にほどき、網まで切ってしまわないように一心に目を凝らしながら、

ぱちん・・ぱちんと・・

g2

 

・・おもいっきり網もろとも切っておられます・・

 

g3

「クニ子さん、それあみやん!」

「はぁあん!!?怒」

「いえ・・何でもないです。ところでそこの実、なんかもう上のほうが黄色くなっているし、切ってもいいんじゃないですかね?」

と聞いたところ、

「いんにゃ、これはまだ生きとるよぅ・・。」

と言って、こんどはゴーヤに微笑みかけ、つかんだ手をそっと元に戻されました。

あすの朝は、スッキリとよみがえった緑のカーテンの真ん中で命拾いしたゴーヤが、静かに顔を出していることでしょう。

g4