付き合うこと

「私、ちょっと…」とK子さんが小声で職員に目配せをする。

職員が「どうしたんですか?」と聞くと、「主人の所に行かないといけないから、私、帰ります。」とK子さん。

「え~!?まだいてくださいよ~!!」とお願いするも、スッと立ち上がった。

職員は少しの期待を込めて(お手洗いかな…?)と考え、誘ってみるが、

K子さんは「いいえ大丈夫!」と縁側から出ていき、靴を履いて歩きだした。

「暑いから車で送りますよ!」と職員が声をかけるが、「大丈夫だから!!」とどんどん歩みを進めていく。職員も一緒についていく。

・・・K子さん、一緒に歩くことは受け入れてくれたようだ。

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K子さんは大きな道路沿いの歩道を迷いなく突き進む。

暑さでK子さんの額から汗は流れ落ち、同じく職員も汗でびっしょり…

職員の方が先に根を上げてしまいそうでした。

(どこまで行くの…?どうやって戻ろう…?)

一緒に歩く時間を楽しむ余裕もなく、必死に知恵を絞りだしていたことは言うまでもありません。

 

スーパーの前を通った時に、「ちょっとここで休みませんか?」と誘うと

「いいわよ。」と付き合ってくれた。

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アイスを買い店内で食べていると、途中で立って行こうとしたので、

「歩きながら食べますか?」と職員が聞くと、

「ダメよ!!フェアレディだから!!」と、K子さん。

・・・淑女たるもの、アイスを立ち食いするなんて

考えられなかったのでしょう^_~

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フェアレディK子さんと、イートインスペースで他愛もない会話をしながらひと休憩。

この時、K子さんとの間には暑い中を一緒に歩いてきた戦友のような、何とも言えない一体感が生まれている気がした。

 

ひと休憩したことで気持ちが変わったようで、帰りは職員についてきてくれ、無事によりあいに戻ってくることができた。

付き合った職員もほっと一安心^o^

職員が伝える道中の出来事を想像し、(自分だったら…)と共感したり、ヒヤッとしながら聞いている。

 

K子さんがなぜ『帰る。』と言うのか。集いの場に居たくないのはなぜか。職員は色々な角度から考えてみる。

上手くいく日もあれば、そうでない日もある。答えは見つからないし、ひとつではない。

だから私たちはK子さんと時間を共にし、付き合うのだ。

K子さんのことを知りたいと思うから。

 

後日、K子さんと二人でドライブをしていた時のこと。

「あなたでよかった~。やっぱり知った人の方がいいでしょう。」とK子さん。

存在を認められたようでうれしい出来事だった。

しかし、よりあいに戻ってきてしばらくすると、「(一緒に行ったのは)あなたじゃなかったわよ。」と言われ、「え~!!!」とずっこける(笑)

 

こんな風にお年寄りと時間を共にできることは、とても贅沢なことかもしれない。

多くの現場では、人員や時間に制限があり、業務をこなすことが優先になってしまいがちだ。

ゆっくり付き合いたい気持ちはあっても、答えられないジレンマを抱えているのではないだろうか。

よりあいは人員配置基準よりも多い職員体制を整え、この時間を保障している。

だからこそ私たちは、お年寄りと時間を共有できること、そこで起こる様々な出来事を楽しめる職員でありたいなと思う。

 

宅老所よりあいにて一緒にお年寄り達の暮らしを支えてくれる介護職員さんを若干名募集してます!
介護職員・夜勤あり【宅老所よりあい・よりあいの森】
介護職員・夜勤なし【宅老所よりあい】
↑ 細かい情報になります。
ご興味のある方は見学からでも構いませんので、ご連絡いただけたらと思います。

2023年 よりあいの森の納涼祭

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先月の話ですが、毎年恒例となっている、よりあいの森「納涼祭」を開催しました。

今年の納涼祭は、よりあいの森と隣接した古民家につどっている「ちゃちゃルーム」の子供たちと一緒に楽しみました!(^^)!

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しゃぼん玉に輪投げに金魚すくい。

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かき氷づくりに千本くじ。

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みなさんお待ちかねの「SADAKO BAR」の「さだこママ」も久しぶりに出陣していましたよ!

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そして、今年のお神輿は子供たちを担いで「わっしょい!わっしょい!!」みんなで一緒に「和」と「輪」を背負って大いに楽しみました。

〆はいつものことですが、みんなで花火をして夏を堪能しました!(^^)!

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子供たちとともに納涼祭を楽しむのは初めてのことだったので、いつもと違う雰囲気?のはずなのですが、なんとなく今までも一緒にいて楽しんでいたかのような自然な感じの中で、お年寄りと子供たちが交わり、一夏の思い出をつくることができました。

これからもよりあいの森のお年寄り達だけではなく、デッキでつながった古民家に集う地域の方々とも一緒になって、この場をつくっていけたらな~と思います(*^^)v

夏祭り is back!!

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今年の夏は実に4年ぶり!!に高取商店街で開催される「高取夜市」の夏祭りに出店させていただきました!

7月22日(土)を皮切りに7月29日、8月5日と、3週連続土曜日の夜に「よなよな」よりあいの森の資金づくり部隊が出動しました。

コロナのために3年間お祭りを開催できなかったこともあり、3日間とも大賑わいで、商店街には人人人人!!みーんな笑顔で楽しそうで!(^^)とっても賑やかでした!久しぶりにお祭りの熱気と言うか、熱い夏の気分を思う存分味わうことができました!

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よりあいの運営は資金づくりとともにあります。

自分たちの職場は自分達でつくる!という思いのもと、バザーやセミナー、マルシェを開催しました。オリジナルのTシャツ、トートバッグ、手ぬぐい、手作りジャム等の販売もしてきました。また、オリーブオイルにオリジナルLINEスタンプhttps://line.me/S/shop/sticker/author/1683591、オリジナルグッズなどは、今現在も販売しています!

よりあいの森、宅老所よりあいは、お年寄りの「今」に応えるために国が定めた介護保険制度における人員配置よりも手厚い職員体制を整えています。

と、言うことは、それだけの人件費が嵩んでしまうわけでもあります。

また、よりあいの森は、地域密着型の小規模な特養です。本来は大規模特養のサテライト的な役割であるため、そもそもが厳しい運営形態となっております。また、宅老所も決して大きな事業所ではありません。

そんな限られた介護報酬の中で、この人件費をやりくりすることは、とても難しいのが今の日本の介護事業所の現状です。

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運営が厳しいのであれば、人員を減らせば良いのでは??との提案も聞こえてきそうですし、ごもっともな意見であることに間違いはありません。

しかし、本当にそれで良いのでしょうか??現場から人がいなくなって、お年寄り達にとって何か良いことがあるのでしょうか??

これまでのような関わり方や支援ができなくなることは目に見えているし、人がいなくなった分、職員達の負担は増え、慌ただしく関わらなければならなくなります。その反動は、すべてお年寄り達の暮らしに降りかかってきて、穏やかでゆっくりと流れるお年寄り時間は限りなく少ないものとなっていくことでしょう。

そんなことを想像したうえで、運営のために人員削減の選択することって本当に良いことなのでしょうか?と問われると、自分たちの応えは「良くないと思いまーす!!」です。

だから、よりあいは資金づくりに励みます。細々とでも、資金づくりに励みます。

お年寄り達の支援をより良いものにしたいから、できる限り「今」に応えていきたいから、職員数の少ない、寂しい、慌ただしい現場にしたくないから、自分たちの職場は自分達でつくっていきたいから、資金づくりに励んでいます。

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正直、もっと介護報酬を増やしてもらいたい気持ちで一杯です。福祉、介護職員の給料はご存じの通り決して高くはありません。

ですが、何らかの支援が必要になってしまったお年寄り達にとっては、絶対にいなければならない存在です。

生きていれば、長生きすれば、みーんな年をとります。

超高齢化社会の日本は、もうちょっと自分達、福祉職の重要性に気付いてくれなきゃいけないと思うのですが、、、すみません。ただの愚痴ブログになってしまいそうなので、この辺りで〆とします。

日本社会も、世界から随分と遅れをとりましたが、コロナへの耐性もついてきました。なので、これから徐々に、よりあい名物?「資金づくり号」と言う車にガソリンを入れ、エンジンをかけ、ブイブイいわせていきたい気分であります。

それでは、みなさま、これからも応援のほどよろしくお願いいたしまーす(‘◇’)ゞ

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食べる口??

食べてもらうタイミングが難しいお年寄りがいる。

食べる気持ちがない時は、開いている口の中へおかずやご飯を運んでも、開きっぱなし。モグモグは一向に始まらない。どんなに話しかけても、問いかけても、体をゆすっても、口のマッサージをしても、甘いものや好物を準備しても、お通じがしっかり出た後だとしても、その口は開きっぱなし。

なので、そんな時は諦めるしかない。食べよう!食べたい!という気持ちになるタイミングを待つ以外打つ手はない。

その日もお昼ご飯の準備はしていたが、みんなが広間で食べている時間帯には食べる気持ちは湧いてこないらしく、口が開きっぱなしで閉じる様子は見られなかった。

周りのみんなが食べ終わるくらいの時間が経過した時、そのお年寄りの近くにいた一人の職員が「今の口は食べる口っぽい。食事の準備をしましょうかね。」と言った。

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普段そのお年寄りと関わる時間が少ない自分は、その言葉を聞いて「食べる口??」とはなんぞや??と思った。これまでその方の口の形と食べるタイミングに注目したことがなかった自分は、最初は疑心暗鬼で様子を疑っていたのだが、、。

すぐに疑ってしまった自分を恥じることになった。パクパク、モグモグ、ムシャムシャ、あっと言う間に一人前をペロリと平らげた。

見た目的に「ポカン」と口が開いているときは食べてくれる期待値は低い。けれど、若干口が開いている面積、広さが狭まっていて、上の唇がすぼんでいるときは、食べてくれるパーセンテージが高いとのことだった。

そのお年寄りのことをよく知っているからこそ見抜けることだな、、と感嘆した。また、常日頃から集いの場がうまく作れているからこそ、そんなお年寄りの小さな動きや合図、食べてくれるタイミングに気づくことができているのだろうな、、とも思う。

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介護業界では、AIやICTを活用し、業務?の生産性や効率性を上げることを目指す動きが着々と進行している。高齢者社会をいち早く迎えた介護の先進国として、介護用AI、ICTを日本から世界へ売り出そうという目論見もあるのだろう。

果たしてAIやICTが、食べてくれる絶好のチャンスである瞬間やタイミングをどのよう気づき、教えてくれるのだろうか。

仮に教えてくれるとしてのイメージをしてみる。監視カメラのような物で、お年寄りの顔をモニターに映し出し、口の形にフォーカスし「今なら食べてくれるよ~」と言う電子音が鳴り、その人の元へ職員が向かう。食べてもらった後、職員はまたモニターの前に行き、画面とにらめっこ。

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そんな暮らしの場を望んでいるお年寄りは果たしているのだろうか。もちろん、そんな場所に集いの場なんて概念はなく、全てのことが個別に行われていくのだろう。

年老いた先に、AIから暮らしに関わる重要なタイミングを判断、把握され、もしくは管理、監視され、関わってくれる主体が人ではない高齢福祉の世界が待っていると想像すると、年をとることで自分の身の回りのことができなくなることに大きな不安を覚えてしまう。

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老いること=不安である社会の中では、生きていく上で一番大事なものが常に「健康」と言う思考から解き放たれる日は来ないような気がする。コロナ禍を通して、「健康」を守るために捨て去っていくものにこそ、本当に大切にすべきものがあるのではないだろうかとも感じる今日この頃。

また、老いた先にそのような未来が待ち受けている国「日本」の出生率は、今後も上がるとは到底思えない、、のは自分だけ?「生老病死」はどうしたって一本の線に繋がっているのだから、、。

これからも、よりあいの森は、「食べる口」に気づける場所であること。「食べる口」になっていることを気づいてくれる職員がいる場所であり続けたい。

そのために今日、「今」の集いの場を作り続けていきたいという思いに至った出来事の話でした(*^^)v

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能面を割る

心疾患で2週間程入院し、無事に退院してきたお年寄り。

入院前はクリっとした大きな目を輝かせ、冗談を言ってはケタケタ笑って、場の盛り上げ役だったのだが、、退院時、その表情はまるで能面のようになっていた。

添書を見ると、入院初日にベッドより自分で降りたことが原因で、転落ハイリスク者とされていた。そのため??四方を柵で囲まれてしまい「うーご君」なるセンサーを付けられて入院生活を送ることになってしまっていた。
※うーご君とは、プレートをお年寄りの洋服に取り付け、そのプレートが抜けると音が鳴る仕組みの体感センサー。

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四方を柵で囲まれたベッドでうーご君をつけられての入院生活。さぞ辛かったことだろう。そりゃー能面のような表情にもなる…。

それぞれの場所での事情もあり、致し方がないこともある??のでしょう。また、病院は「治療」する場所なので、安静にしておかなければならないのも理解できる。しかし、それを免罪符として、がんじがらめにベッドの上に縛り付けなければならない治療って一体なんなんだろう??と正直疑問に思う。

退院できた日から、一日一日、固まっていた表情が和らいでいくのが手に取るようにわかった。おしゃべりも徐々に増えていき、入院前のように他のお年寄りへ話しかけるようにもなった。そして、2週間くらい経過したころには、やっと以前のような笑顔とおしゃべりを取り戻すことができた。

一安心。とはまさにこのこと。

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このお年寄りの能面が割れていく様を見ていて、改めて、お年寄り達が集う「場」の大切さと、お年寄りが必要としているありのままの暮らしを守ることの必要性を切に感じた。

老いてくると入院し、治療が必要になることは避けては通れないことなのかもしれない。ならば、自分達にできることは、治療の場から暮らしの場へいつでも戻ってくることができるように、それぞれの方に応じた「場」を準備しておくことだと感じている。

そして、これからも集いの力と場の力とお年寄り達の力を借りて、被らざるを得なかった能面を割り続けていきたい。

それにしても、、能面にひびが入り、割れていく様をみているのはこれ以上ない喜びだった。

このような経験ができるのもこの仕事の醍醐味の一つなのだが、、できるならば、このような事例のように、心を閉ざさざるを得ないような社会環境、社会構造というべきものが少しでも改善されていけばな、、、と願っている。

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